でくの舞
 

  東二口文弥人形浄瑠璃・でくの舞を支える人々(3)  


若手の力。でくの申し子と言われた山口久仁さんのインタビュー

 
 

山口久仁

   山口久仁さん

今回は東二口文弥人形浄瑠璃保存会を最年少で支えている 山口久仁さんに話を伺いました。太夫・三味線・笛・人形遣いをオールマイティにこなしたお父様の血筋でしょうか幼少期には早くも「でくの申し子」と呼ぼれるほど人形浄瑠璃にのめり込む少年であったそうです。山口さんがでくと歩んできた「これまで」と「これから」もについて話を伺いました。 

 
 

幼少期の思い出

リトルモウ

リトルモウ

Q1.山口さんは保存会の中では最年少です。でくを始めたきっかけについて教えて下さい。
 
 
山口久仁
具体的なことを色々知ったのは、小学生になってからです。その頃、村に文化祭があり、同世代の5〜6名の子供たちで演目をやってみようということになり、全部で5演目あったので1年に1演目づつ教えてもらいました。道下会長や土井下さんが「この場面はこうやぞ」と説明しながら、手取り足とりみっちり教えてくれました。その時に内容がグッと入ってきました。
 

父との絆

リトルモウ

リトルモウ

Q2.先輩でもある
お父様から教わったことや、学んだことも多いのではないですか。
 
山口久仁
お互いに照れがあって、家ではでくのことについて話をすることは少なかったのですが、以前、父がまわしていたでくを自分が担当した時は、「そうじゃない」と言いながら昔ながらの動きを教えてくれました。

リトルモウ

リトルモウ

そのお父様が一昨年突然亡くなられ辛い思いをされましたね。(※インタビューは2018年のものです)

 
山口久仁
自分が家で昼ごはんを食べ終わったのと入れ替えに、父が帰って来て、軽く言葉を交わしてから、自分は家を出たのですが、たまたま忘れ物があって家に戻ったら、父が倒れていたという状況でした。本当に偶然というか、忘れ物のことがなければ発見も遅れたと思いますし、後悔が残ったと思います。

 
リトルモウ

リトルモウ

Q3.お父様のあとを継いで今後、笛や三味線などもやっていく予定はあるのですか?
 
  
山口久仁
笛は、生前父から吹いてみろと言われ、父の指の動きを見て覚えました。三味線は、今の人数では、舞い手が一人減ることになるので、現状では難しいところです。

 

「でく」への情熱

リトルモウ

リトルモウ

Q4.では、山口さんが特に好きな演目(場面)について教えてください。

山口久仁
大職冠

   大職冠「母と子」

そうですね。演目ごとに好きな場面はそれぞれありますが、『大職冠』の海女人が竜から玉を取り返したあと、子供と別れを惜しみながら命が尽きる場面や、『出世景清』で景清を裏切った阿古屋が改悟し、我が子2人を殺し、自らの命も断つシーンはかなりグッと来ます。

リトルモウ

リトルモウ

でくと、気持ちが重なるということですね。

山口久仁
はい。『出世景清』で自分は、母親(阿古屋)に殺される兄弟の下の子の人形を小学校の頃から持っていましたが、歳を重ねて20才を過ぎた頃から徐々に、感情移入するようになって来ました。

でくの環境とこれから

リトルモウ

リトルモウ

Q5.たくさんの方が真冬の山麓東二口まで「でく」を見に来られますが、すごいことですよね。
 
山口久仁
そうですね。以前東京で公演をする機会があって、有料だったにもかかわらず、「でく」を好きな方で会場が満杯になったことがありました。その時、我々のことを知って下さった方が、足を運んで下さるようになりました。なかには、ここに来たくても、来れない方もいて。そんな方たちの思いも感じながら、余計頑張らんなんなという気持ちになります。

リトルモウ

リトルモウ

応援してくださっているみなさんの思いに応えたいですね。
 
山口久仁
婦人会のみなさんの協力がないと、まつりでの炊き出しはできないし、公民館の方や金沢工業大学のみなさんはじめ、いろんな方に支えられて実際出来ていると思っています。

リトルモウ

リトルモウ

Q6.現在の立場から、これからの活動について思うことはありますか。

 
山口久仁
自分の下がいないので、この先どうなるのかという思いはあります。今、頑張らなくては「でく」が伝わらなくなる。でも今、頑張れば何とかなるかとも思うので・・・今、しっかりとやっていきたいです。
 

でくの先輩は人生の先輩

リトルモウ

リトルモウ

Q7.70代から20代のみなさんで「尾口のでくまわし」は継承されていますが、山口さんにとって保存会のみなさんはどのような存在なのですか。
  
山口久仁
保存会の中で何でも教えてもらって来たという感じです。でくのことも人生のことも。大人になって先生から聞いたのですが保育園で「ビール持って来い」とか言ってたらしくて(笑)。まつりの打ち上げで聞いていたのを真似ていたのだと思いますが、心のどこかで上の人たちにずっと憧れていたような気がします。

 
リトルモウ

リトルモウ

最後に、今後に向けて思うことがあれば教えてください。
 
山口久仁
でくの舞

   公演後の記念撮影

ここの雰囲気が子供の頃から、大人になった今でも好きです。今、でくを楽しめている自分がいます。5年後、10年後どうなるかわかりませんが、今のメンバーで見せられるものを続けていきたいです。ですから、自分の父親みたいに突然いなくなるのは嫌です。身体を大事にして欲しいです。
 
リトルモウ

リトルモウ

心強く温かい言葉で締めくくっていただきました。
私たちもずっと応援しています。ありがとうございました。
 

  ※2018年に取材したものです。