『酒呑童子・大江山』初段

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酒呑童子・大江山

 初段
千年ほど昔、都が京都にあった頃のお話です。
その頃、都を守っていたのは、源 頼光(みなもとのらいこう)という優秀な武将でした。
頼光には優れた五人の家来がおり、 名を綱(つな)・金時(きんとき)・定光(さだみつ)・末武(すえたけ)・保昌(ほうしょう)といいました。
ある時、 「近頃はすっかり弓矢を使うこともなくなったが、何か珍しい出来事はないものか」と 頼光が問いかけると、 保昌が「九条通りの羅生門に鬼が住んでいるとの噂が流れております。
夜になると姿を現し、人や家畜を奪って喰うそうです」と、話を始めました。
他の者たちも「わしも聞いたぞ」 「わしもじゃ」と口々に応えました。
しかし綱だけは、「そんなバカなことなどあるはずがない。
でたらめを信じるなど馬鹿げてい る」と言い、その夜たった一人で羅生門へ行き、
本当に鬼が出るか確かめに行くことになりました。
綱は、鎧兜を付け剣を腰に差し、証拠に置いてくる札を持つと馬にまたがりました。
いよいよ羅生門に差しかかったその時、急に風が吹き、馬が身震いをして立ち止まりました。
もう一歩も進もうとしません。
仕方なく、綱は馬から飛び降り羅生門の階段を上ると、
札を取り出し、段の上にそっと置きまし た。
その時、背後から強い力で兜(かぶと)を引っ張られました。
負けるものかと、兜のヒモを引きちぎり、石段から飛び降りて綱が振り向くと
そこには、屋根の高さほどもある大きな鬼がそびえ立っていました。
「おまえを引き裂いて喰ってやる」
鬼が手を伸ばしたその時、綱はヒラリと身をかわすと剣を手に取り「やぁーっ」と、
一気に振り落としました。
ドサッと大きな音がして、鬼の片腕が地面に落ちました。
鬼は驚き、塀の上に飛び上がると 「ちくしょう、必ずその腕を取り返しに行くから覚えていろ」 と、言うが早いか姿を消してしまいました。
綱は「鬼を取り逃がしてしまった」と悔しがりましたが、 鬼の片腕を持って帰って帰って行きました。
鬼の腕は、巨大な岩のようにゴツゴツしています。
爪は龍のように折れ曲がり、とても不気味でした。
頼光は綱に褒美を渡すと 「鬼は七日もしないうちに仕返しにやって来るに違いない。
くれぐれも気をつけろよ」と言いました。
そこで綱は頑丈(がんじょう)な箱に腕をしまい、 門を閉じて用心深くしておりました。
その日の夕暮れ、一人の老婆が屋敷の門を叩きました。

「怪(あや)しい者ではございません。
昔、綱様のお世話をしておりました乳母でございます」と言います。
「今夜は遅いから、明日来なさい」と、扉を開けずに門番が告げると、
「何とひどい扱いでしょう。追い返すなんて恩知らずな」と、泣きわめきます。
その声は屋敷中に響き渡り、綱は仕方なく門を開け、乳母を部屋に招き入れました。
乳母は「あなたの身に良く無いことが起こる夢ばかり見ております。
何か思い当たることがあるのではありませんか」と言うので、綱が羅生門での一部始終を話すと今度は「その鬼の腕とやらを見せて下さい」と言い出しました。
綱は、また大声で騒ぎ出すと困るので、鬼の腕を取り出してみせました。
すると、突然、自分の片腕につなぎ合わせ「これは、私の腕だ。持ち帰るぞ」と
立ち上がりみるみる間に、鬼の姿になり、屋根下の壁を突き破って飛び去って行きました。
綱は、地団駄を踏み「必ずお前を探し出して退治してやるぞ。覚悟しておれ」と、
空に向かって大声で叫びました。

 

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