『酒呑童子・大江山』第二・三段

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酒呑童子・大江山

 第二段

それからというもの、鬼たちはひんぱんに都に現れお姫をさらっていくようになりました。
池田の中納言の娘は、まばゆいばかりの美しさで大切に育てられておりました。
やがて、身分も申し分のない貴族の息子と婚約し嫁入りの日を待ちわびていると
ある日、ひとりの女が屋敷を訪ねてきました。
「姫君をお迎えに上がりました。私は使いの者です」
嫁入り支度をした姫は、女に連れられ屋敷をあとにしました。
ところが女の正体は、石熊童子(いしくまどうじ)という大江山に住む鬼だったのです。
間もなく、本物の使いがやって来ましたがあとの祭りです。
必死で、姫の行方を探しても何ひとつ手がかりは見つかりませんでした。
 

第三段

池田の中納言は、都で一番といわれる占い師を呼んで姫の行方を占ってもらうことにしました。
占い師は「これは、丹波の国大江山に住む鬼のしわざでございます」と言いました。
池田の中納言は急いで天皇のもとへ行き、姫君が鬼にさらわれたと訴えました。
鬼のことは国の一大事になっておりましたので、頼光に、鬼退治を依頼することになりました。
頼光は、家来たちを集めると「神様にもお力を貸していただけるようにお願いをしておくのが言いだろう」と、
綱と金時は、熊野の神様のもとへ、定光と末武は、住吉明神へお参りに出掛けました。
頼光は、保昌を連れて、八幡様の山に行き祈願すると、目の前に神様があらわれ、「安心して鬼退治に行きなさい。守っておるぞ」と
お告げになられました。頼光は心強く思いました。

いよいよ鬼退治に向かう夜のこと。
戦いに備えて、鎧兜と剣を笈(おい)に入れてかつぐと、山伏の衣を着ました。
「こうして、山伏に見せかけ山道で迷ったふりをして鬼に近づき、だまし討ちをするのじゃ」
 さて、都を出発してから、どれくらいの時間が経ったでしょうか。
山里を越え、ようやく大江山のふもとまで着きました。
ところが、この先に道がありません。
ふと、芝刈りをする老人を見つけ頼光は大江山への道を訪ねました。
老人は、高くそびえる山を指差し「あの山の白く見えているのが、鬼の城から流れ落ちる滝です。
時々、真っ赤な血が流れていることもあります。
山とても人が行くようなところではないと聞いております」と答えました。
頼光は、老人にお礼を言うと再び山の中を進み始めました。
岩間の、草ぶきの小屋の中に、三人の老人の姿が見えました。
頼光が声をかけると「私どもは、酒呑童子に妻と子を奪われ、無念でここまでやって来たのです。
我々が道案内をしましょう。まずは、ここで疲れをいやしてください。」
そこで六人は、しばらく休ませてもらうことにしました。
老人が言うには、鬼の親分は酒が大好きなことから、名前を「さけのみ」と書いて、酒呑童子というのだそうです。
そして神変鬼毒(しんぺんきどく)という、不思議なお酒を頼光に渡しました。
「このお酒は、悪い鬼がのむと、毒が回り、心の美しい人間がのむと、からだ中に力がみなぎるのだ」
酔いつぶれたところを狙って退治なさいと言いました。
そして、二人目の老人が長い持ち手のついた銚子を取り出し「これで酒を注ぐと、次から次と泉のように湧き出てくるから、いくら飲んでも無くなることはない」と、差し出しました。
三人目の老人は、大きな鉄の鋲がついた星兜を取り出し「どんな強い力で押さえつけられても、溶けた熱い鉄を注がれても、この星兜を被っていれば大丈夫です」と、頼光に手渡しました。
頼光は三人の老人が、都を出る際に訪れた神社の神様の化身なのだと気づき、感謝の気持ちでいっぱいになりました。


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