『酒呑童子・大江山』第四段

   15.png 16.png 17.png 19.png 20.png 21.png 22.png 23.png img20200128110300850711.png  

酒呑童子・大江山

 第四段

老人たちと別れ川の上流に辿り着くと、若い娘が血に染まった着物をすすいでいました。目から涙がポロポロこぼれています。頼光が話しかけると「私は、鬼にさらわれて連れてこられました。
酒呑童子という鬼は、私どもの腕を切り、足を削って血を絞り、お酒のように飲みます」とまた泣き出しました。
「必ず、あなたたちを都に連れて帰るので安心なさい」と、頼光は優しく言いました。
娘は喜びましたが、そろそろ戻らないとまた、ひどい目に合わされると言い、
急いで鬼の城へ戻って行きました。
六人もすぐさま、城へと向かいました。
石が積み重ねられた高い塀が連なり、岩を割って作られた扉が並んでいました。
鬼の門番が、大きな目をむいてこちらを睨んでいました。
「丁度、人間が喰いたかったところだ。
さてさて、すぐ引き裂いて喰ってやろう。」そう言って、手を伸ばそうとした時、
もう片方の門番が引き止めました。
「待て、待て、まずは親分に差し出してからにしよう」と、言うので六人は、
酒呑童子のところへ連れて行かれることになりました。
突然、生臭い風が吹き、稲妻が飛び交いました。
目の前に肌は赤く、髪はくしゃくしゃの大きな鬼が立ちはだかりました。
酒呑童子です。頼光たちを見下ろす姿は、身震いするほど恐ろしいものでした。
「この山は、人が来られるような道はない。おぬしら、人間の身でありながらどうやってここま辿り着いたのじゃ。話してみろ」と言います。
頼光は、平静を装って、「我々、山伏は代々、修行を重ね、魔術を身につけ鍛錬して参りました。
春を迎え、一目、都を見ようと、下山して参りましたが、道に迷い思いがけず、
このお城にを踏み入れたというわけです。これも何かのご縁でございます。
是非、私どもが持っております酒を差し上げたい」
酒呑童子は酒に目が無いので、嫌というわけがありません。たいそう喜び部屋へ招き入れました。
そして、「まずはわしが、ご馳走しよう。」と血の酒を盃に注ぎました。
頼光は、平気な顔で飲み干すと、隣の綱に盃を渡しました。
綱は、「素晴らしい酒でございます。
加賀の菊酒はじめ全国の名酒を飲みましたが、こんなに美味しい酒は初めてです」とほめたたえました。

酒呑童子は、喜び「おい、何か酒のつまみになるものを持ってこい」と、
子分に命じると、いま切ったばかりの腕と、足が台に乗せられ運ばれて来ました。
頼光は、舌打ちをしながら、食べ始めました。「では、私も」と、綱も勢い良く頬張ります。
酒呑童子はこの様子を見てすっかり警戒心が無くなったようです。
そこで、頼光は、神変鬼毒の酒を注ぎ差し出すと、酒呑童子はのどに流し込みました。
「こんなに旨い酒は、初めてじゃ。妃たちにも飲ませることにしよう。」と、
都からさらって来た二人の姫を座らせました。調子づいた酒呑童子は、自分の生い立ちなど自慢話をしておりましたが、急に立ち上がり「実は、ひとつだけ心配なことがある」と、顔を曇らせました。
一同を見渡しながら「都に源頼光という大悪人がいて、めっぽう強いらしい。
その五人の家来らも油断がならない。とはいえ、ここまでやって来ることはあるまい。
山伏殿、どう思われる」というやいなや酒呑童子の顔色がみるみるうちに青くなりました。
「ふむふむ、そなたをよく見れば、頼光ではないか。さては」と言い、
鉄の棒を持って身構えました。
頼光は、心を落ち着かせて「その昔、お釈迦様は、空腹の鬼に、自分の身体を切って
分け与えたことがありました。私たち、山伏も同じような考えで修行しております。
もし、酒呑童子殿が腹を空かしておいでなら、いつでもこの身体を差し上げましょう。命など惜しくはありません。」きっぱりと言いました。
酒呑童子はこの言葉に安心したように、気を取り直すと歌を唄い始めました。
そして、そばにいた石熊童子に「踊れ」と命じると、鬼も山伏も唄い踊り、にぎやかに宴会は続きました。
すっかり酔っぱらった酒呑童子は、ついにふらふらと立ち上がると寝床に向かいました。
他の鬼たちもところかまわず横になり、いびきをかき始めました。
頼光は、二人の姫のそばに寄り、声を沈めていいました。
「鬼の寝床に案内をして下さい」

 
 


前のページへ戻る